大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和40年(く)145号 決定 1966年2月03日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  論旨第四点は、原決定の理由の欄には何故に収容保護の必要があるか、また何故に初等少年院送致とされるかについて説示がなく、少年審判規則第二条第三項にいわゆる「理由」を附さない違法があると主張する。

よつて所論に基き、本件少年保護事件記録および少年調査記録を精査し、原決定を仔細に検討すると、原決定によれば、その主文として「少年を初等少年院に送致する」との記載がなされ、その理由の欄には、犯罪事実として司法警察員作成の少年事件送致書に記載された犯罪事実を引用したうえ、「この事実は刑法第二四九条第二二二条第二〇八条に該当し、少年に対しては収容保護の必要があると認めるから、少年法第二四条一項三号少年審判規則第三七条一項を適用して主文のとおり決定する。」と記載されていることが明らかである。これによると、原決定の理由として、少年審判規則第三六条所定の罪となるべき事実およびその事実に適用すべき法令のほか、簡略な形ではあるが少年の収容を必要とする要保護性についても触れているから、少年審判規則第二条第三項の要件を充しており、その他、決定に影響を及ぼすような法令の違反が存するとは認められない。因に原決定の引用する前記少年事件送致書の記載によれば、少年の本件非行は、昭和四〇年二月から同年一〇月一四日頃までの間合計二二回にわたる恐喝、暴行、脅迫の事実であつて、このように長期間にわたり反復して多数の非行が繰り返されていること自体少年の犯罪的傾向を窺わせるに充分であるから、原決定は右のような、それ自体強度の要保護性を窺わしめる事実を認定し、その他各記録にあらわれた諸事情を勘案して少年に対しては初等少年院送致処分という「収容保護の必要があると認め」て主文のとおり決定したものと解される。

そればかりでなく、少年審判規則第二条、第三六条、第三七条等の少年保護事件の決定書に関する各規定の各条項を対比し、また少年保護事件における決定書の意義、機能に照らし、さらに保護処分決定において特定の保護処分を選択する理由の如きは極めて複雑な要素をもつ総合判断であつて、その事柄の性質上これを説示し尽すことは困難であること等をも併せ勘案すると、保護処分決定の言渡しに際し、その趣旨を懇切に説明し、これを充分に理解させるようにしなければならないことは別として(同規則第三五条第一項参照)、決定書の理由として特定の保護処分を選択する理由を表示することは法の要求するところではないと解するのが相当である。もとより決定書のうちにおいて、これらの点につき詳細に説示するのは望ましいのであり、その意味では原決定の判文がやゝ簡に失する嫌いがないではないけれども、右に説明したとおり、これをもつて違法と目すべきものではない。それ故論旨は理由がない。(目黒太郎 深谷信也 渡辺達夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例